自閉症児特有の「飛び出しお出かけ期」について 4

 『発達障害当事者研究』(綾屋紗月+熊谷晋一郎)の中で、
アスペルガー当事者である綾屋さんも、
 「そもそもコミュニケーションにおける障害とは、二者のあいだに生じるすれ違いであり、その原因を一方に帰することのできないものである。たとえるなら、アメリカ人と日本人のコミュニケーションがうまくいかないときに、「日本人はコミュニケーションに障害がある」というのは早合点であろう。」と書いています。
 つまり、当事者研究(当事者が自己を語り研究すること)により自閉症そのものの理解が進み、深まっていけば、コミュニケーションのギャップ(溝)は、小さくなってゆくと考えられます。今までは、健常者からの一方的な見方だったのが、当事者という通訳者を得て、相互に理解が進む道があることが分かってきたと言えるでしょう。
 ですから、なるべくこの方法をとってゆきたい。活かしてゆきたい。そうすると、「行き詰まりの状態に陥りやすい」の記述も、あくまでも、私たちの側から観た一方的な見方かもしれない。じつは、「私たちの(自閉症に関する理解の)『行き詰まり』でもある」ということが、理解されますでしょう。
 従って次回は、自閉症児と私たちのコミュニケーション(相互作用としての)という視点から、私たちが、彼らとどう向き合って、あるいは、どんな態度で、関わってゆけばいいのかを探ります。 

自閉症児特有の “飛び出しお出かけ期”について3

「行き詰まりの突破」が「飛び出し、お出かけ」の最初の動機と言えます。そして、一旦、この関連づけがなされ、心地よい結果(お菓子が手に入るとか、開放的な気分になるなど)が得られれば、常にその機会を伺うようになります。
 では、私たちはどうすればいいのでしょう? 対策と称してその場しのぎで「物理的に出られない化」したり、「監視強化」だけに終わってしまわないためには、何が必要なんでしょうか?
 この問いに答える前に、少し考えてみます。「行き詰まりの突破」に向けられた自閉症の子の行動は、私たちの想像を超えた次元に達することがあります。「まさか、こんなところから出てゆくとは思わなかった」「こんなところまで歩いていくなんて」あるいは「あんな高いところまで登ってしまうなんて」と私たちや親御さんは何度飛び出しやお出かけの直後、感嘆したことでしょう。(こういった感嘆は、日本中でいや、世界中で繰り返されているはずです。世界中の一人でも多くの関係者とつながり、共有してゆく必要があります。)
 ですが、別な見方をすれば、すなわち行動面だけからみれば、決して異常な行動ではないことに気付きます。だって自閉症でない子なら「お母さん退屈してるし、お腹すいてきたから、コンビニ店に行ってアイス買って来るね」とひと言言って出て行くだけなんですから。
 では、このひと言が言えないことが、自閉症という障害の成せる業なのでしょうか?確かに、自閉症の三つ組みの障害とは、「社会性」「コミュニケーション」「想像力」の質的な差異。これらが認められると自閉症と診断されます。だから、「自閉症児はコミュニケーションに障害がある」という言い方がよくされるわけですが、これは、じつは正しくないと私は思っています。

自閉症児特有の「飛び出し」「おでかけ」期について 2

自閉症の子は、なぜ、「無鉄砲な」飛び出し、お出かけ
をするのでしょうか?自閉症でない子ならば、ありえない行動をとるのは、なぜでしょう。
 自閉症の本質は、編集機能の障害です。だから、自閉症の子の思考の特徴は、【直列】です。一方、非自閉の思考は【直列】【並列】両方可能です。
 【並列】思考とは、単純に言えば、チワワや甲斐犬ゴールデンレトリバーやパグ犬などをまとめて「犬」だと理解することです。
 ピタゴラスイッチ系の歌に、『ボクのお父さん』があります。「お父さん、お父さん、ボクのお父さん、会社に行くと会社員、電車に乗ると、通勤客、食堂入るとお客さん、歯医者に行くと患者さん、、、、」同じ人物が、次々に名を変えてゆきますがこれらすべて同じ人物ぼくのお父さんです。これ、並列思考です。
 自閉症の子は、【並列】思考が苦手です。と言うか、基本的に【直列】思考と言えます。これが、認知発達の初期の段階から始まりますので、かなり、独特な発達過程をとらざるを得ません。
 【直列】思考は、一対一が基本です。なので、認知発達の初期の段階にある自閉症の子の行動面は、延々と同じことを繰り返すか(常同行動)、即、行き詰まって、落ち着かないか(多動)のどちらかになりがちです。
 また別な言い方をすれば、直列、一対一の思考では、「全体性」を形つくることが困難です。場当たり的な行動をとらざるを得ず、うまく適応行動をとれないので、当然、情緒的に不安定になりやすいです。言語による理解は、不完全で、限定的なものにならざるを得ないので、畢竟、視覚優位の状況で、一対一の関連付け(例えば、窓が開く→外に出られるというような)をせざるを得ません。
 このような、自閉症児の一連の認知、行動面の特徴は、情緒面の不安定さと相まって、「行き詰まりやすさ」として現れます。だからこそ、行き詰まりを何とかして突破したい衝動に駆られやすいと言えるでしょう。このような状況で、視覚的に外の世界に出られることが経験できれば、いつでも、外に出ようと準備のできている状態の子が誕生するというわけです。
 「行き詰まりの突破」が「飛び出し、お出かけ」の最初の動機と言えます。そして、一旦、この関連づけがなされ、心地よい結果(お菓子が手に入るとか、開放的な気分になるなど)が得られれば、常にその機会を伺うようになります。
 では、私たちはどうすればいいのでしょう?

いきなりはじまる

まず、幼児期から超多動で、ちょっとお母さんが目を離した隙に、いなくなってしまう子がいます。このタイプの場合、お母さんもある程度心構えができているとは言え、とてもスペシャルな育児を経験することになります。Aくんは、お家を飛び出し、近所の家の換気扇を見て歩くのに、こだわりました。お母さんは、その都度わが子の後を付いてまわりました。今は成人して、律儀な青年になって働いています。
Bくんは、逆に外へ出かけたがらないようなおとなしいタイプ。ところが、小学2年生の時、お母さんを探して、県立中央病院までおでかけしたことがありました。今まで、飛びだしたのは、この一回だけだそうです。
 AくんBくんに共通するのは、本人の飛び出し、お出かけの目的がはっきりしていることです。ならば、周囲は本人の目的を理解して、とことんつきあうべきです。目的がはっきりしているならば、こちらも対処しやすい。ここで、しつけがどうの、安全がどうのという理由で、私たちが本人の目的を遮断する事は、決して、得策ではありません。自閉症児は、その認知の特性上、目的を持った行動がとれるようになれば、そこを足がかりとして、次のステップに進むことができますし、やがてこの世の仕組みをより理解しようと考えるようになるからです。
 問題は、目的がはっきりせず、しかも、ある時期から突発的に飛び出し、おでかけするタイプです。それは、いきなりはじまります。        

自閉症児特有の飛び出しお出かけ期について 1

 10歳から13歳にかけて、主に言葉のない自閉症児には、「飛び出しお出かけ期」がはじまることがあります。このことは、数多ある自閉症関係の本にも、あまり多くを触れられてこなかったように思います。が、事はいのちに直接関わることでありますし、自閉症児が成長する過程で、ご家族や私たち支援者が何をどう気をつけていったら良いのかを、ここ1年前から数ヶ月前までのすきっぷ・あくしゅでの苦い‘ひやりはっと’経験を踏まえ、考えてゆきたいと思います。(月刊すきっぷ11月号の記事より転載)